膵島移植症例登録報告(2014)(全文転載)

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膵島移植症例登録報告(2014)
日本膵・膵島移植研究会膵島移植班
『移植』Vol. 49, No. 2・3


Ⅰ はじめに
重症低血糖発作を合併する1 型糖尿病に対する低侵襲移植療法である膵島移植は,本邦では組織移植に分類され,主に心停止ドナー膵から分離された膵島を移植に供する特色を有し実績を重ねてきた。
膵島分離用酵素の問題を機にその実施は一時停止したが1),その後,製造過程の問題を解決した安全性の高い膵島分離用酵素が入手可能となり,新規免疫抑制療法の安全性・有効性の評価を目的とした臨床試験が計画され,2012 年6 月より臨床膵島移植が再開されている。
さらに,臓器移植法改正後のドナー状況の変化を受け,膵臓移植には適さないとされた脳死下提供膵を膵島移植に利用する体制の構築が必要とされ,「脳死ドナーからの膵島移植」の実施が,2013 年4 月より開始された。
本稿では,2013 年末までの膵島移植の実施状況と課題について報告する。


Ⅱ 対象と方法
膵島移植実施体制の現状と2013 年12 月末までの膵島移植レシピエント候補者登録数,2007 年までに実施された膵島移植症例の生着率について簡潔に述べる。
2012 年6 月の膵島移植実施体制再開後,2013 年12 月末までに,5 例の膵島分離と2 例の膵島移植が実施された。
これらの膵島分離成績について報告し,さらに膵島移植臨床試験の進捗状況と今後の展望について報告する。
なお,2012 年以降に実施した膵島移植は臨床試験として実施されているため,詳細な成績については試験終了後公表される予定である。

1. 膵島移植施設認定および実施体制
日本膵・膵島移植研究会では,実際に膵島の分離・凍結・移植が可能であることを確認するために施設基準を設け,新たに膵島移植実施施設の申請があった場合はこの施設基準をもとに日本膵・膵島移植研究会内の施設認定委員会で検討し,施設認定を行っている2)。
2013 年12 月末現在,膵島分離・凍結・移植施設として,北から東北大学,福島県立医科大学,国立病院機構千葉東病院,信州大学,京都大学,大阪大学,徳島大学,福岡大学,長崎大学の9 施設が認定されている。
2013 年4 月に岡山大学が認定施設一時取り下げとなったが,2013 年9 月に信州大学が新たに認定され,施設数としては昨年末から変化はない。
膵臓摘出から移植までの時間を短縮するために,施設認定を受けた各施設は日本膵・膵島移植研究会内のシェアリング委員会における協議決定に従い,その施設が存在する地域および隣接する地域を担当する形で地域を分担しブロック体制を形成している。
2013 年末現在のシェアリング体制を図1 に示す。
また,先行して移植施設として認定されていた6 施設(東北大学,福島県立医科大学,国立病院機構千葉東病院,京都大学,大阪大学,福岡大学)においては膵島移植を先進医療B として実施できる体制にある(先進医療技術名:重症低血糖発作を伴うインスリン依存性糖尿病に対する脳死または心停止ドナーからの膵島移植)。

2. レシピエントの適応と選択基準
膵島移植の適応基準は,
①_内因性インスリン分泌が著しく低下し,インスリン治療を必要とする状態で,
②1 型糖尿病発症から5 年以上経過し,
③_糖尿病専門医の治療努力によっても血糖コントロールが困難な,
④_原則として75 歳以下の患者,
としている。
重度の心・肝疾患,アルコール中毒,感染症,悪性腫瘍の既往,重症肥満,未処置の網膜症などを認める場合は禁忌である。
腎機能の観点からは,膵島単独移植の場合は糖尿病性腎症3 期までを適応とし,腎移植後膵島移植症例では,移植後6 カ月以上経過し,クレアチニン1.8 mg/dl 以下で直近6 カ月の血清クレアチニンの上昇が0.2 以下で,ステロイド内服量10 mg/dl 以下,などの基準を満たす症例を移植の対象としている。
これらの適応を満たした症例は,日本膵・膵島移植研究会内膵島移植班事務局へ登録され,レシピエント選択基準をもとに選択される2)。
また,現在実施されている臨床試験への参加希望者に対してはさらに,安全性および有効性への影響を考慮した適格基準,除外基準を定めている。
年齢が20 歳から65 歳までで,糖尿病専門医によるインスリン強化療法を行っており,12 カ月の間に1 回以上の重症糖尿病発作の既往があることを主な適格基準としており,BMI 25 kg/m2 以上インスリン必要量が0.8 IU/kg/日以上あるいは55U/日以上過去1 年間に複数回測定したHbA1c 値(NGSP値)の平均値が10.4% 以上eGFR 60 ml/min/1.73m2以下,等といった項目を除外基準として定めている(UMIN 試験ID:UMIN000003977)。


Ⅲ 結果と考察

1. レシピエント候補者登録状況
膵島移植の適応基準に基づき2)2013 年12 月末の時点で延べ180 名が登録され,3 回の移植を終了あるいはさらなる移植を希望しない移植完了者が7 名,保留となったものが5 名,辞退者44 名待機中死亡10 名ありレシピエント候補者として114 名が待機中である。
この候補者のうち,
臨床試験参加希望者には,臨床試験の適格性調査を行い,適格性が確認されれば臨床試験参加予定者として登録され,膵島移植の実施は臨床試験のプロトコールに従って行われる。
臨床試験参加の希望のない候補者および臨床試験参加の適応のない候補者は,臨床試験ではなく従来通りの各施設の臨床研究の形式にて膵島移植が実施される。
2000 年以降の新規登録者数の推移を図2 に示し,申請から登録までに要する期間を図3 に示す。
申請者数,登録者数とも2007 年の膵島移植停止を機に減少している。
申請から登録までの日数は3 カ月以内が最も多いが,慎重な適応判断が必要であるため半年や1 年を越えるケースも少なくない。
膵島移植実施件数が少なく,登録患者の待機日数は年々延長していたが,2013年中に移植が実施されたことにより平均待機日数の減少が得られた(図4)。
今後も実施件数増加が望まれる。

2. 膵島移植成績(膵島移植臨床試験開始以前)
まず,膵島移植停止前,すなわち膵島移植臨床試験開始以前までの移植成績の概要を報告する。
本邦では2003 年に初めての臨床膵島分離が行われ,2004 年に初めて臨床膵島移植が実施された。
以降,2007 年12月までに65 回の膵島分離が行われ,1 例の脳死ドナーを除く64 回は心停止ドナーからの提供で,このうち34 回が移植の条件を満たしていたため18 症例(男性5 例,女性13 例)に対して膵島移植が行われた。
膵島移植後の免疫抑制プロトコールはエドモントン・プロトコールに準じて実施された1,3)。
エドモントン・プロトコールでは1 症例に対し3 回の移植を想定しているが,本邦では背景にあるドナー不足の影響と,膵島分離用酵素の問題による臨床膵島移植実施の一時停止による影響で,18 例に対する移植回数は1 回8 名,2回4 名,3 回6 名であった。
これらの症例のうち,2回移植の1 例と3 回移植の2 例の計3 症例で一時的ではあるがインスリン離脱を達成したが,インスリン離脱の最長期間は214 日間であった。
本邦における膵島移植症例にエドモントン・プロトコールによる膵島移植の多施設共同研究3)における膵島生着の基準である,basal c-peptide level が0.3 ng/ml 以上を当てはめると,初回移植後1 年,2 年,5 年時における膵島生着率はそれぞれ72.2%,44.4%,22.2% であった(図5)。
膵島生着率について海外の成績と比較するにあたっては,本邦での移植実施例はすべてMaastricht classification
のCategory _(Dead on arrival),category _(Unsuccessful resuscitation)and category _(Unexpected cardiac arrest in an intensive care patient)に当てはまる「Uncontrolled」心停止ドナー4)からの提供であること,本邦では移植を受けた18 人のうち3 回移植を受けられたレシピエントは6 名に過ぎず,移植から次の移植までの期間が長い(0~954 日,平均242 日)こと,などの背景を考慮する必要がある。

3. 膵島移植臨床試験
これまでの膵島移植のプロトコールでは,移植膵島の長期生着が困難であるという点が今後の一般医療化に向けての問題であると認識された。
海外では,Anti-thymocyte globulin,抗TNFα 抗体(Etanercept)による導入療法に続いて,低容量tacrolimus,sirolimus またはmycophenolate mofetil を用いた維持療法を行う方法により,膵島移植の長期成績が改善したとの報告を受け5),このプロトコールを採用した多施設共同第III相臨床試験が北米を中心に実施されている。
すでに症例登録は完了し,2014 年中に移植後のフォローアップが終了し結果が示される見込みである。
本邦でもこのプロトコールを踏襲し,本邦の薬剤入手の状況も踏まえsirolimus をmycophenolate mofetil に替えたプロトコールを作成し(図6),多施設共同での第Ⅱ相臨床試験の実施体制が整えられた。
このプロトコールは,膵島に対する自己免疫反応の抑制,拒絶反応の予防,移植直後におけるカルシニューリン阻害剤の減量,制御性T 細胞の誘導,移植膵島に対する非特異的免疫反応の抑制などにより,移植膵島の生着率を向上させることを目的としている。
主要エンドポイントは,初回移植から1 年後にHbA1c 値<7.4% であり,かつ初回移植後90 日から移植後365 日にかけて重症低血糖発作が消失した患者の割合,としている。
臨床試験推進拠点(東北大学病院臨床試験推進センターおよび先進医療振興財団)の支援を得て質の高い臨床試験体制が整備されている。
膵島移植は,これまで主に心停止ドナーを対象としていたが,改正臓器移植法施行後脳死ドナー増加と心停止ドナー減少の傾向が認められている。
一方,脳死下提供膵島を移植に用いることができれば膵島移植の生着率の改善が得られる可能性が指摘されている。
そのため,膵臓移植には適さないとされた脳死下提供膵を膵島移植に利用する体制の構築が必要とされ,「脳死ドナーからの膵島移植」も高度医療の枠組みで実施出来るよう厚生労働省へ申請し,2013 年3 月に「脳死ドナーからの膵島移植」が先進医療B として承認され,同年4 月から運用されている。

4. 臨床試験進捗状況と臨床試験開始後の膵島分離成績
膵島移植実施体制が整備されたことを受け,2012年6 月に膵島移植のための膵臓提供が再開され,2013年末までに5 件の膵島分離が実施された。
膵島移植再開後は,製造過程の問題を解決した安全性の高い膵島分離用酵素(Liberase MTF,ロシュ社)6)が膵島分離に使用されている。
5 例のうち,3 例が心停止下臓器提供で,2 例が脳死下臓器提供であった。
5 例中直近の2 例で膵島移植の基準2)を満たし,新しい免疫抑制プロトコールによる膵島移植が実施された(表1)。
2013年10 月の脳死ドナーからの提供による膵島移植は,本邦初の脳死膵島移植であり,特筆に値する。
膵島移植の臨床成績についての詳細は,臨床試験終了後に報告されるが,これまでのところ重篤な有害事象の報告はなく,試験は継続している。


Ⅳ 今後の展望
脳死ドナーからの膵島提供が可能となり,今後は膵島移植の成績を踏まえた膵臓移植とのアロケーションも今後の重要な課題となる。
また,膵島移植は組織移植の範疇に分類されているため,コーディネーション体制が複雑化しており,さらに組織移植コーディネーターの不足や臓器移植側との連携体制など膵島提供体制には多くの課題が指摘されている。
低侵襲で効果的な医療を望む1 型糖尿病患者への新たな治療オプションの提示という意義に加え,提供臓器の有効利用によりドナーの意思をより活かす上でも膵島移植は重要な役割を有している。
今後も,さまざまな問題点を丁寧に解決しながら,一般的な医療としての確立されることが望まれる。


Ⅴ おわりに
日本膵・膵島移植研究会を中心に,日本移植学会や日本組織移植学会等の関係各所と連携しながら,膵島移植を1 型糖尿病の一つの治療選択肢として確立するための取り組みを誌上で報告した。
関係各位に対し,稿を終えるに当たり感謝の意を表したい。

文責:日本膵・膵島移植研究会膵島移植班事務局
穴澤貴行,後藤満一







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